ハラスメント相談ーヒアリングで直面する記憶と認識のズレ
ハラスメント相談の対応では、相談者から話を聞き、行為者からも話を聞けば、事実関係が明らかになると思われがちです。しかし、実際には双方の説明が食い違ったり、行為者から「覚えていない」と言われたりすることも少なくありません。
ハラスメント相談対応やヒアリングの研修でも、「相談者と行為者の話がまったく違う場合、どうすればよいのか」「行為者から覚えていないと言われたら、それ以上確認できないのではないか」といった声が聞かれます。
ハラスメントの事実確認は、単に双方の話を聞けば解決するというものではありません。そこには、人の記憶や認識の違い、そして話を聴くこと自体の難しさがあります。
目次
ハラスメント相談で記憶や認識にズレが生じる理由
例えば、上司が部下に対して業務上の注意をした場面を考えてみましょう。
上司は「必要な指導をした」と認識している一方、部下は「大勢の前で強く叱責された」と受け止めていることがあります。同じ場面に居合わせていても、立場やそのときの状況、相手との関係性によって、記憶に残る内容や印象は異なります。
また、人の記憶は、出来事をそのまま正確に保存しているわけではありません。そのときの感情や周囲の状況などが影響し、後から振り返ったときに、出来事の一部が強く印象に残っていたり、細かな部分が曖昧になっていたりすることもあります。
そのため、双方の説明が食い違っているからといって、どちらかが嘘をついていると決めつけることはできません。一方で、単なる記憶違いとして片づけることも適切ではありません。
大切なのは、双方の話を先入観なく聴き、どの部分が一致し、どの部分に違いがあるのかを整理することです。
ハラスメントのヒアリングで「覚えていない」と言われたら
ヒアリングの場面で、行為者から「覚えていない」と言われることがあります。
相談者は具体的な発言や出来事を訴えているのに、行為者はそのような言動をした記憶がないと答える。このような場合、担当者はどのように対応すればよいのでしょうか。
「覚えていない」という回答だけで、事実確認を終えてしまうのは早計です。
例えば、当時の業務内容やその前後の出来事、同席していた人、当時のやり取りなど、周辺の状況を尋ねることで、記憶をたどる手がかりが得られることもあります。
ただし、無理に思い出させようとしたり、「こういうことを言いませんでしたか」と回答を誘導したりすることは避けなければなりません。
また、本人の記憶だけに頼るのではなく、必要に応じて関係者への確認やメール、チャットなどの記録を調べることも重要です。
記憶がないという回答も一つの情報として受け止めながら、ほかに確認できることがないかを検討する姿勢が求められます。
ハラスメントの事実確認を進めるために必要なヒアリングの技術
相談対応では、相手の話を否定せず、気持ちに寄り添いながら聴くことが大切です。しかし、丁寧に話を聴くことと、事実関係を確認することは、必ずしも同じではありません。
例えば、相談者が「いつもひどい言い方をされる」と話した場合、「いつも」という言葉だけで状況を理解したつもりになってはいけません。
「具体的には、どのような言葉をかけられましたか」「それはいつ頃のことですか」「その場には誰かいましたか」など、具体的な質問を通して、出来事を一つずつ整理していく必要があります。
また、本人が実際に経験した出来事と、その出来事をどのように受け止めたかを分けて整理することも大切です。
そのためには、相手の話を遮らずに聴く力だけでなく、必要な情報を引き出す質問力や、曖昧な情報を整理する力が求められます。
ハラスメントの事実確認で相談員に求められること
ハラスメント相談では、担当者が事実関係を確認しようと努力しても、すべての情報が得られるとは限りません。相手が「覚えていない」と答えたり、説明が曖昧だったり、双方の話が食い違ったままになったりすることもあります。
そのようなとき、担当者は「もっと聞き出さなければ」「自分の聞き方が悪かったのではないか」と悩むことがあります。
しかし、ヒアリングの目的は、無理に答えを引き出すことではありません。必要な質問を行い、得られた情報を整理し、何が確認できていて、何が確認できていないのかを明らかにすることも、重要な役割です。
確認できないことが残る場合には、その事実を適切に報告し、次の対応につなげることが求められます。事実確認の難しさを担当者個人の責任にせず、組織として対応を考えることも大切です。
ハラスメント相談対応・ヒアリング研修で実践力を身につける
ハラスメントの相談対応やヒアリングでは、あらかじめ用意された質問を順番に尋ねればよいというわけではありません。相手の話の内容や反応に応じて質問を変えたり、曖昧な部分を確認したりする柔軟な対応が必要になります。
こうした力は、知識を学ぶだけで身につくものではありません。実際の相談場面を想定し、自分の質問の仕方や聴き方を振り返りながら、実践を重ねることが大切です。
弊社のハラスメント相談対応研修・ヒアリング研修では、実際の相談場面を想定したロールプレイを取り入れています。例えば、相談者と行為者の話が食い違う場面や、行為者から「覚えていない」と言われる場面などを想定し、どのように質問し、情報を整理していくかを実践的に学びます。
相談者と行為者、それぞれの話を丁寧に聴き、先入観を持たずに事実を確認していく。そのために必要な知識とスキルを、実践を通して身につけてみませんか。