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自治体職員を守り、住民との信頼を築くために ―カスタマーハラスメント対応研修の必要性

近年、自治体の窓口におけるカスタマーハラスメント(以下、カスハラ)の問題が深刻化しています。

自治体職員へのカスタマーハラスメント

 

「いつまで待たせるんだ!」「お前の態度が気に食わない!」と怒鳴られたり、電話で「お前の給料は俺たちの税金だろう!」と長時間話し続けられたりする――。こうした事例は、どの自治体でも珍しいものではありません。自治体職員が理不尽なクレームや暴言にさらされ、業務に支障をきたすケースが増加しているのです。
総務省が2024年に実施した調査によると、職員の約35%が過去3年間にカスハラを経験したと回答しており、特に広報広聴、福祉事務所、戸籍窓口など、住民との接点が多い部署での被害が顕著です。

 

カスタマーハラスメント(カスハラ)とは

カスタマーハラスメント(カスハラ)の定義は定まっておりませんが、厚生労働省の対策マニュアルにおいては以下のような行為がカスハラに該当するものだとされています。

顧客などからのクレーム・言動のうち、という外クレーム・言動の要求の内容の妥当性に照らして、当該要求を実現するための手段・態様が社会通念上不相当な者であって、当該手段・態様により、労働者の就業環境が害されるもの

公務員が受けるカスハラは

自治労の調査に寄せられた回答では、「暴言や説教」が最も多く約64%で、次いで「長時間の居座り」約60%、「複数回に及ぶクレーム」が60%。また、「暴力行為」が約14%、「金品の要求」が約13%など、刑法違反も発生しています。さらに、迷惑行為は特定の住民が繰り返しているとの回答が約9割を占めています。

 全日本自治団体労働組合 総合労働局「カスタマーハラスメントのない良好な職場をめざして」

カスハラの背景

カスハラの背景には、制度や手続きへの誤解、不安感、孤立、職員への不信感といった要因が潜んでいることも少なくありません。
強い言葉や行動の背景には、「自分の話を聞いてほしい」「丁寧に対応してほしい」という気持ちがある場合もあります。そのため、単に「相手が悪い」と切り捨てるのではなく、適切な距離を取りながら、必要な情報を正確に伝え、冷静に対応する力が求められます。
対応する職員が感情的になり、恐怖や怒りに巻き込まれてしまうと、
築けるはずだった住民との信頼が壊れてしまうこともあります。

公務職場カスハラへの対応法

職員を守りながら、住民との信頼を築く必要性

行政サービスは、本来、公平・公正に提供されるべきものです。しかし、ごく一部の利用者による過剰な要求や威圧的な態度が、現場で働く職員の安全と健康を脅かしているのが現実です。
対応が難しい住民と向き合うとき、単に「防御」に徹するだけではなく、重要なのは、職員を守りながら、住民との信頼関係をどう築いていくかという視点です。

組織としての備え

 相談体制の構築
職員が孤立せず、安心して相談・報告できる環境を整えましょう。
心理的安全性の確保と、早期対応による被害の拡大防止につながります。

・専用の相談窓口(人事課、メンタルヘルス担当など)の設置
相談内容の記録とフォローアップ体制の整備

 研修の実施
職員がカスハラに対して適切に対応できる知識とスキルを身につけるために、ロールプレイなどを行う研修が有効です
内容例
・カスハラの定義と事例紹介
・ロールプレイによる対応訓練
・線引きの判断基準と対応フレーズの習得
・メンタルケアやストレス対処法

 録音・録画の導入
対応の記録を残すことで、職員を守り、証拠として活用できるようにします。
導入例
・窓口や電話対応の録音・録画機器の設置
・録音中であることを明示する掲示(抑止効果あり)
・記録の保存期間と管理ルールの明文化

*注意点:個人情報保護の観点から、利用目的や管理方法を明確にする必要があります。

 外部機関・専門家との連携
組織内で対応が難しいケースに備え、専門的な支援を受けられる体制を整えておくと安心です。
連携先の例
・弁護士:法的対応の助言や代理対応
・警察:脅迫・暴力などの刑事案件への対応
・コンサルタント:カスハラに対する実践的な研修やマニュアル作成支援

マニュアル・ガイドラインの整備
職員が迷わず対応できるよう、判断基準や対応フローを明文化します。
対応フロー内容例
カスハラの定義と具体例
初期対応からの流れ
記録の取り方、報告の手順
参考資料:厚生労働省が作成した「カスタマーハラスメント対策企業マニュアル」では、対応手順や相談体制の整備、研修の実施などが体系的にまとめられています。

現場での対応

毅然とした態度
不当な要求に対しては、感情的にならずに「明確に線引きすることが重要です。ポイントは冷静さと一貫性
ただし、ストレートな言い方ではなく、クッション言葉を取り入れてみてください。
「ご意見は真摯に受け止めておりますが、現時点では対応が難しい状況です」
相手のペースに巻き込まれず、組織のルールとして伝えるのも有効です。
「市の規定により、このような対応はできかねます」

複数名での対応
一人で対応すると心理的にも物理的にも負担が大きくなります。
2人以上で対応することで、証言の裏付けや安全確保にもつながります。
特に暴言や威圧的な態度が予想される相手には、上司や別部署の職員を同席させることで、相手の態度が軟化するケースもあります。

対応時間の制限
長時間の拘束は、職員の業務に支障をきたすだけでなく、精神的な疲弊にもつながります。
「市の対応基準により、1回のご相談は30分以内とさせていただいております」といった終了の合図となるフレーズを準備しておくとスムーズです。

警察や弁護士、また外部の専門家との連携
暴力・脅迫・ストーカー的行為など、刑法に触れる可能性がある場合は、躊躇せずに警察へ通報します。
また、録音・録画の導入により、証拠を残しておくことも重要です。カスハラの予防にもつながりますし、警察や弁護士への相談時に役立ちます。

カスハラ対応研修の導入とそのメリット

カスハラ対策の中で、有効な取り組みが、「カスハラ対応研修」です。
研修では、ハラスメントの定義や境界線、実際の事例の紹介に加え、以下のような実践的なノウハウを学ぶことができます。

カスタマーハラスメント研修導入のメリット

冷静な対応技術:カスハラを受けても感情的にならず、適切に対処する方法を学ぶ。

毅然とした態度:理不尽な要求には明確に「対応できません」と伝えるスキルを習得する。

エスカレーションの活用:一人で対応せず、上司や専門部署に問題を引き継ぐ流れを理解する。

記録の徹底:対応履歴を適切に記録し、再発防止や対応の正当性確保に役立てます。

メンタルヘルス管理:ストレス軽減のためのセルフケア方法を学ぶ。

研修では、単に「対処のしかた」を学ぶだけでなく、「住民の声に耳を傾けつつ、どこまで応えるべきか」という線引きの視点も大切にしています。
声が大きいからといって特別に対応してしまうと、公平性が損なわれ、他の住民からの信頼を失う恐れがあります。一方ですべてを拒否するような対応では、住民の怒りをあおり、状況を悪化させてしまうこともあるでしょう。

カスタマーハラスメント研修の重要性

“バランス感覚”を持ち、組織としての統一された対応ルールや判断基準を整えることが不可欠です。
それは、一人ひとりの職員を守ると同時に、行政全体の公正性と、住民からの信頼を守ることにもつながります。
対話が難しいと感じる利用者であっても、できる限り良好な関係を築いていくためには、職員自身の対応力と、組織全体の支援体制を整えていくことが必要です。

「困ったら、声を上げていい」
「職員を守ることは、住民との信頼を守ること」

自治体職員が安心して働ける環境を整えることは、結果として、住民サービスの質の向上にも直結します。
カスハラ対応研修の導入は、自治体の未来を支える大切な施策の一つです。
こうした対策を進めることで、住民と職員のより良い関係づくりにつながるでしょう。

詳しい研修内容・お見積りは無料でお送りいたします。お気軽に下記バナーをクリックしてお問い合わせください。

 

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