職場のハラスメントに関する実態調査 令和5年度厚生労働省
令和5年度の厚生労働省による職場のハラスメント実態調査は、職場環境の改善と労働者の保護を目的として行われ、この度、調査結果が報告されました。
この調査は、パワーハラスメント(パワハラ)、セクシュアルハラスメント(セクハラ)、妊娠・出産・育児休業等ハラスメント、介護休業等ハラスメント、顧客からの著しい迷惑行為(カスタマーハラスメント)、および就活セクハラに焦点を当てています。
今回のコラムではパワーハラスメントに関して、詳細を見ていきます。
パワーハラスメント調査結果から考えるハラスメント対策
目次
パワーハラスメント調査概要
令和5年度厚生労働省の調査によれば、過去3年間にパワーハラスメント(パワハラ)を経験した労働者の割合は全体の19.3%に上り、これは他のハラスメントと比較して最も高い割合です。
特に「男性管理職」(24.0%)や「女性管理職」(23.6%)が高い割合を示しています。以前リクルートワークス研究所が行っていた調査でも被害者は管理職が多いという結果が出ておりました。組織では管理職に対して加害者にならないための研修をすることがほとんどですが、実は被害者にもなりうるのが課長職です。
企業においても、64.2%がパワハラの発生を認識しています 。
※株式会社ハートセラピーでは、お客様に合わせたハラスメント対策研修を開催しております。また公開研修も毎月開催中です。
パワハラの具体的内容
パワハラの内容として最も多かったのは、「脅迫・名誉毀損・侮辱・ひどい暴言(精神的な攻撃)」で、全体の48.5%を占めました。
次いで「業務上明らかに不要なこと、遂行不可能なことの強制、仕事の妨害(過大な要求)」が38.8%を占めています。
また、「業務上の合理性なく、能力や経験とかけ離れた程度の低い仕事を命じることや仕事を与えないこと(過小な要求)」が24.5%、「隔離・仲間外し・無視(人間関係からの切り離し)」が27.8%、「私的なことに過度に立ち入ること(個の侵害)」が27.5%と続きました 。
パワハラの行為者に多い立場
パワハラの行為者は主に「上司(役員以外)」が65.7%を占め、「会社の幹部(役員)」が24.7%で続いています。これは、職場の権力関係がハラスメントの発生に大きく関与していることを示しています 。我々がおこなっている行為者個人研修に参加する方は課長職が多いのですが、お話を聞いていると実はさらに上司の部長や役員から同じようなハラスメントを受けた経験があるという方もいます。
また、パワハラをよくしていた院長が辞めて他の方に変わられたとたんにパワハラがなくなったというケースもありました。
上層部がパワハラ傾向だと、どんどんパワハラが広がるのです。
ハラスメント組織の取り組みと効果がでる対策
多くの組織がパワハラ防止に向けてさまざまな取り組みを実施しています。
例えば、「相談窓口の設置と周知」(約70%)や「ハラスメント防止の方針の明確化と周知・啓発」(約60%)が一般的です。また、ハラスメント防止の取り組みが進んでいる組織ほど、ハラスメントの発生率が低くなる傾向が見られます。
しかし、パワハラの防止には多くの課題が残っています。特に「ハラスメントかどうかの判断が難しい」(59.6%)や「従業員の精神的なケアが難しい」といった声が多く、企業の取り組みが十分ではない場合も多いです。
最近は研修依頼のご要望として「すでにハラスメントは何かはみんな把握しているので、グレーゾーンについてを取り上げてほしい」というような声が増えております。パワハラについては白黒つけるのは難しいのですが、グレーだから良いと考えるのではなく、相手に対してどのように関われば誤解もされず、理解してもらいやすいかを考えて行動していただくことが良いです。
研修では、ワークにて「ご自身が行った行為や発言がパワハラなのか、適切な指導になるのか」を検討していただき、講師が「こうするとパワハラになるが、このようなフォローをすればならない」などの解説をしております。
これからのハラスメント研修は「何がいけない」「何が違反だ」ではなく、「どうすればよりウェルビーイング(健康)な組織ができるか」に焦点を当てた研修をお勧めします。
ハラスメント被害者への対応が不十分
パワハラを受けた労働者の中で、「何もしなかった」と回答した人が36.9%と多く、被害者が適切な対応を取るのが難しい状況が浮き彫りになっています。
また、勤務先がハラスメントを認識していた割合は37.1%と低く、認識した後に「特に何もしなかった」との回答が53.2%に達しています。これにより、被害者が相談しても適切な対応が取られないケースが多いことが示されています 。
これは非常に危険なことです!労災認定判断にて用いる「※心理的負荷評価表」においても、ハラスメント相談を受けた後に組織が対応をしてくれない場合に被害者への心理的負荷が「強」になるとされています。つまり、被害者はメンタル不全となる傾向が強まりますし、仮に訴訟問題に発展した際は、組織が責任を負う度合いも重くなります。
※心理的負荷評価表とは 労働者が発病した精神障害を労災と認定するかの評価を行う際に用います。実際に発生した業務による出来事を、心理的負荷評価表に示す「具体的出来事」に当てはめ、負荷(ストレス)の強さを評価するもので、「弱」「中」「強」の段階があります。 パワハラに関する項目において、「心理的負荷としては「中」程度の身体的攻撃、精神的攻撃等を受けた場合であって、会社に相談しても又は会社がパワーハラスメントがあると把握していても適切な対応がなく、改善がなされなかった」場合には「強」になるとしています。 |
ハラスメント相談を受けた場合は適切に対応することが重要です。弊社では相談対応研修や事実確認研修を定期的にオンラインにて開催しておりますが、参加されるのは相談員や人事担当者です。
しかし、今回の調査では、被害者が相談する先は上司、同僚が多いのです。パワハラ対策検討会(弊社代表 柳原も委員です)においても「すべての従業員がハラスメント相談対応法について学ぶ必要がある」という話になりました。
今後の社内研修としては、ハラスメント相談対応法も研修内に盛り込むことをお勧めします。
上司が相談に乗り、良かれと思い先走り行動した結果、被害拡大となったケースが多々あります。
下記バナーの公開研修は社内研修として時間を短くするなど、内容をアレンジして行うことも可能です。
ハラスメント行為者に対する取り組みも大切
厚生労働省やリクルートワークス研究所のハラスメントに関する調査からもわかるように、行為者を放置しておけばさらなる被害者だけではなく、行為者を生む組織風土に必ずなります。予算はある程度かかりますが、放置して被害が拡大することを考えれば、そのリスクよりも個人研修にかける費用はかなり安いです。
当社ではハラスメント行為者の個人研修を行っておりますが、参加者の皆さんも周囲との関わり方に悩んでいる方が多いのです。
その方の話を聞いて、その方に合うオリジナルのプランを提供することで、皆さん前向きに学び、変わろうとしてくださいます。
もともと仕事ができる方が多いので、その方がさらに周囲と適切に関わり、指導も出来るようになれば生産性も上がります。
コラムを書きながらいくつかのサービスについてもご紹介させていただきました。是非お気軽にご相談ください。
次回もコラムで、セクシュアル・ハラスメント、カスタマー・ハラスメントの概要をお伝えしていきます。 杉山修&柳原里枝子